陳満咲杜の「大道至簡」
 

新著のご紹介

2012年08月19日(日)

クロス通貨ペアの話(2)

前回では、かなりリスクオンの市場環境でなければ、ドル/円の暴騰が難しいと指摘していたが、対円だけではなく、ユーロなどそのほかの主要通貨に対するドル全体のパフォーマンスはEUソブリン危機の恩恵を受けていることを忘れてはいけない。

言い変えれば、ドルはリスク回避先として評価され、買われている以上、リスクオンになればなるほど、ドル全体は実に売られやすい傾向にある。逆に言えば、リスクオンの環境になればなるほど、ユーロ/ドルは上昇しやすくなる。従って、ユーロ/ドルが下げ続いている間、ドル/円のみ暴騰といった構造は基本的に成立しにくいわけだ。

もっとも、クロス円としてのユーロ/円のレートは理論上ユーロ/ドルとドル/円レートの掛け算から算出できるものだから、ユーロ/ドルの下げはユーロ/円の下げをもたらし、ユーロ/円における円高圧力を生じさせる。ユーロ/円経由の円高圧力は逆にドル/円に影響を及び、ドル/円のみの暴騰はあり得ないからである。

クロス通貨ペアの仕組みを理解することによって、巷の俗論に安易に流されなく済むだろう。例えば、EUソブリン危機を根拠にユーロ安の進行を鼓吹する一方、ドル/円だけ高値ターゲットを提示してしまうといった「ロジック」の真贋を判定できる。

その上、何といっても相場全体像の把握によって市場の内部構造の発見につながる、といったところはもっとも重要で、大局観の形成に役に立つでしょう。最近では、ユーロ/円の94円台死守が好例である。

ユーロ/円は7月24日94.10の安値を付けてから反発してきた。ユーロ/ドルの値動きとリンクしているものだが、重要なのはユーロ/円によって94円台はとっても大事なレベルであった。

同レベルは08、09年安値から2012年1月安値を連結するサポートラインに合致していただけに、下回れば大きな下値余地を拓くことになる。そして、ユーロ/円の下値余地拡大は間違いなくユーロ/ドルの暴落を暗示、またドル/円の頭打ち、至って反落を示唆するサインである。

EUソブリン危機でユーロの暴落は避けられないといった世論の強さに鑑み、ユーロ/円の94円台割れも当然の成り行きとみられていたが、それを回避したことは重要なシグナルを点灯したわけだ。即ち、ユーロ/ドルの底割れ回避とドル/円の調整(反落)終焉である。

それどころか、98円台を回復してきたので、ドル/円の反騰だけではなく、ユーロ/ドルもある程度のリバウンドなしでは達成できないものだから、ユーロ/円は先週市場の基調を象徴的な存在となった。

Posted at 23時53分 パーマリンク


2012年08月18日(土)

クロス通貨ペアの話

「クロス円の動きが理解できてはじめて為替相場が理解できる」・・・ある外資系バンカーが著作の中このような目次を設けていることが、より適切な表現は「クロス通貨ペアの動きを理解できてはじめて為替相場が理解できる」ということであろう。

ならぜら、より相場の全体像を掴むには、円絡みの「クロス円」に限定するのではなく、「クロス通貨ペア」全般の値動きをフォローする必要がある。クロス通貨ペアなしでは精確な相場像を把握できないと言い切れるほどだ。

まず、クロス通貨ペアの定義とは、交換関係にある両通貨のどちらも米ドルが入っていない通貨ペアである。勿論、その内の一方に円が入っていれば、クロス円というカテゴリーに入る。

次に、クロスという名称の由来に重要な意味を持つ。つまり、ドルストレート(ドルとその他外貨)通貨ペアのレートがクロス通貨ペアのレートを決める仕組みで、それぞれのビットとオファーを交差(クロス)させ、掛け算で算出する必要があるから、クロスいった呼び方が定着していたわけだ。

だから、逆計算という始点から、クロス通貨の動向から特定の通貨の動きを全面的に把握でき、その延長で相場全体像の把握につながる場合は多い。先週の相場を例としてみてみよう。

先週ユーロ/豪ドル、ユーロ/円、ユーロ/NZドル、ユーロ/ポンドなどユーロクロスはほぼすべて陽線引けとなった。それはユーロが余程強いか、それともほかの通貨が余程弱い、のどちらかであることを示唆する現象だ。

実際、ユーロ/ドルは陽線引けとなったものの、値幅は限定的だったから、値幅が相対的に大きかったユーロ/豪ドルとユーロ/円に鑑み、先週豪ドルと円が弱かったことが分かる。

そして豪ドル/円の週足も陽線だったので、より弱いのは円であることを確定できる。だから、ドル/円は一番上昇幅を有していたはずで、ユーロクロスの中、先週ユーロ円のパフォーマンスが一番よかったわけだ。

そして、EUソブリン危機の進行でユーロ暴落論が根強いなか、ユーロ/円の上昇は示唆を富む。なぜなら、クロス円なので、ユーロ/円の上昇は仮にドル/円が暴騰したとしても、同時にユーロ/ドルが少なくとも暴落を回避できたでない限り、実現しにくいものだ。

しかし、ドル/円のみの暴騰はなかなか足許の状況では考えにくい。なぜなら、かなりリスクオンのムードが強くないと、円売りは進めにくいからだ。その上、クロス円の仕組みから考えても、ドル/円のみ暴騰といった話しには矛盾が生じる。詳説はまた次回。

Posted at 23時48分 パーマリンク


2012年08月11日(土)

HFTの脅威

多くの銀行系ディーラーにとって、為替市場におけるHFT(フラッシュトレードと言われ、ヘッジファンドらが所有される高頻度取引システム)は頭痛の種だ。また、多くの通貨ブローカーはHFTの流行に危機感を募り、監査当局に取り締まりを要請する動きさえある。

彼らに言わすと、HFTに毎日苛立されているという。マーケットにおける通常の取引を一々邪魔してくれるくせに、市場の流動性に貢献していない。

為替ブローカー最大手のICAPはかく乱要素としてのHFTを撃退しようしている。例えば、主要統計指標が発表された後の時間差を狙う「統計アービトラージ」、つまりNYで発表される米経済指標がロンドン市場に影響してくる僅か数ミリ秒(千分の?秒)を狙う手法は取締りの対象になると発表した。

他の例では、HFTシステムが非常に早いスピードで注文を出し、また取り消してしまうから、人間トレーダーはそれの存在さえ気づくことできないという。幾ら熟練な人間トレーダーでも、オーダーを出してから取り消すには、最低300ミリ秒がかかるといわれているが、HFTシステムは同じことをやるには、1ミリ秒未満だ。

近年、株式やデリバティブ取引で急増したHFT取引の威力は外為市場にも押しかかける。それにしても、コンピューターと通信技術の発達で、1ミリ秒未満でも、億ドル単位の取引を完成できる本日では、為替マーケットは比較的に伝統色を保てるといわれている。

というのは、概算では、為替マーケットにおける取引の半分程度はなお人間トレーダーによって行われ、為替市場における人間の判断力の重要性は株式など他の金融市場より高いとみられるからだ。また、インターバンク市場であるだけに、清算機構の分散で電子取引の統一化、汎用化を阻止している側面もある。

それにもかかわらず、世界最大金融市場へ参入する可能性に憧れ、もっとも強力なHTF業者らは虎視眈々だ。株式市場取引量の低下で、多くの有力業者は為替市場に進出始まった。もっと高度に発展し、完全に規制された株式市場では、何百もの異なる取引プラットフォームが存在しているに対して、外為市場にはわずか十数個しかないという状況はHFT業者にとって魅力的だ。

いずれにせよ、為替マーケットにおけるHFTの存在感はますます高まるに違いない。そこで我々個人投資家に示唆があれば、以下の2点に集約してくるだろう。

1、 所謂スキャルビングといった超短期トレードを繰り返すトレーダーにはこれからまずます勝ち目がなくなる。

2、 経済指標発表瞬間の値動きを狙う「イベント型トレーダー」は「カモ」にされるリスクはますます高まる。

この辺の話は、実は前に書いた「スナイバーと機関銃士」に通じる部分が多いので、詳説はまた次回。

Posted at 11時50分 パーマリンク


2012年08月05日(日)

閑話休題(3)

2008年の金融危機以来、米国経済は、前半堅調、後半失速といったパターンを繰り返してきた。具体的に言うと、上半期では景気に関する楽観論が広がったところ、中盤になってくると雇用、消費の失速が見られ、FRBは合わせて夏場から秋口にかけて対策を打ち出す、これによって年末にかけて再び楽観論に傾く、といった繰り返しだ。今年も例外ではないかもしれない。

6月以降、米国景気感は急速に悪化し、雇用状況も総じて芳しくないものだった。先週末予想以上の新規雇用がリリースされたものの、失業率は依然低いままだ。6月に比べ、景気後退感を否めない。

さらに重要なのは、EUソブリン危機の長期化につれ、中国が率いる新興国の成長にも影を見え始め、共に構造的な問題を露呈している。このような状況の中、ブッシュ政権によって開始された財政措置(税務免除)は、年末まで終了する予定で、延期なしでは景気刺激の原動力を失い、景気後退が確実視される。

大型減税案の終止及び公共支出削減に伴う財政の崖は、確実に米経済を圧迫し始めている。企業は見通しが不透明のままでは投資を控え、新たな就職を生み出せず、消費マインドの低下を招く。

伸び悩みに直面しているなか、米国の財政政策に緩和の余地がほとんどないだけに、金融政策は残された随一選択肢となる。政策の効果が定めではないが、FRBが政策の発動に踏み切るしかないといった見方は根強い。

となると、QE3を打ち出すタイミングに関して議論を広がる。マーケットには米大統領選以降、或いは来年上半期に延期される見方が多く、その根拠は政治的なリスクをFRBが避けたいといった推測にある。

一方、バーナンキ氏は政治的なリスクを背負っても、必要であれば、行動すべき時期に行動するだろうといった観測も根強い。何しろ、「ヘリコプター・ペン」の渾名を持つ議長は自らの行動をもって自己主張を証明する使命があり、またそのために議長に指名された思惑がある。

この意味では、 9月13日のFOMCはQE3、またはQE3に近い政策を発表する絶好のチャンスとなろう。最近の慣例となろうか、ジャクソンホールにおいて、マーケットに示唆を与え、地合いをならしていくことがもっとも想定されやすい。

但し、QE2が効いていなかったように、QE3だけでは、状況を驚くほど改善できない。一方、市場センチメント及び資産価格に対する刺激効果において、インパクトの逓減及び限界を配慮しても、プラスになることは間違いない。リスクオンの市場環境はFRBの行動なしでは確信できないものがある。

Posted at 22時32分 パーマリンク


2012年08月04日(土)

閑話休題(2)

ドラギ総裁はユーロ防衛と誓っていた。有言実行の意味合いでは、2日に行われたECBの結果だけでは失点が多いように見えるが、ドラギ氏の発言をよく吟味すると、かなり大胆な政策発動の可能性を潜んでいるではないかと思う。

それを一言で言うと、ECBによる量的緩和の可能性に尽きる。ドイツの反対も予想されるが、ドラギ氏はドイツ中銀総裁を名指して言ったように、ECB理事による「数の論理」で強行する余地があるから、実現される可能性を否定できない。

ECBはこれまでもスペインやイタリアなどの国債を購入してきたが、あまり効果を出さずにいることを最近のスペイン国債危機でよく観察される。ECBの国債買い入れ自体がいわゆる不胎化した上でのものだったことを市場は見抜き、介入の不発も当然な成り行きだと思われる節がある。またECBはFRBやBOEのようなQE、即ち量的緩和はやらないと常に言ってきた。

ECBは国債買い入れを通して市場に投入した資金を、短期オペを通じて市場から引き揚げし、買い入れを不胎化することをしてきた。しかし危機の深化につれ、ついECBのスタンス転換があるではないかとマーケットが期待している。金曜日ユーロの上昇はこういった市場センチメントの表れであろう。

言い変えれば、以下の2点が非常に重要なポイントだ。まず、「非不胎化」の国債買い入れはQEそのものであることをマーケットは認識している。次に、量的緩和に対する期待は少なくとも中短期スパンではユーロを押し下げるではなく、押し上げることになる。

こういった観察から得られる結論も明白だ。一見矛盾しているように見えるが、FRBの量的緩和期待はドルを押し下げることに対して、ECBの量的緩和期待はユーロを押し上げ、結果的に同じくドルを押し下げることになる。

こういった矛盾を解けるのはそう難しくなかろう。カギはリスクオン/オフの市場センチメントにある。株式市場のパフォーマンスとリンクし、結局リスクオンに寄与する動きがあれば、ドル安/ユーロ高をもたらし、反面、リスクオフのムードが高めれば高いほどドル高/ユーロ安をもたらす。

ECBの量的緩和、紙幣の刷り撒くといった意味合いでは本来ユーロの価値を押し下げるか、国債市場の安定に寄与すれば、EUソブリン危機の一服でリスクオンのムードに転換しやすい。こういった思惑が先行する内、ユーロの反発を続くではないか。

Posted at 20時12分 パーマリンク


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プロフィール

株式会社 陳アソシエイツ

代表取締役

陳満咲杜

1992年に来日し、生活費と学費をアルバイトでまかないながら、大学時代より株投資を開始。中国情報専門紙の株式担当記者を経て黎明期のFX業界へ。香港や米国の金融機関で研修を重ね、トレーダーとしての経験を積む。GCAエフエックスバンク マネージングディレクター、イーストヒルジャパン チーフアナリストを経て独立。日本、中国、台湾地域をカバーした執筆、講演、情報サービス、投資家教育などの活動に取り組んでいる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員。

活動状況

陳アソシエイツ公式WEBサイト。
豊商事YutakaMaeketTVにて毎月放送中
ザイFXでのコラム。毎週金曜日更新。
ラジオNIKKEI「FXトレンドの真実」。毎週月曜放送。
デイリーベースのストラテジーを配信。

著書

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